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中国の何がヤバいのか? -独裁の中国現代史 毛沢東から習近平(楊海英)-

本書は、中国共産党の独裁体制がどのように形成されてきたかの歴史を描く。

著者は内モンゴル自治区出身で現在は静岡大学の教授をされている楊海英氏。

 

もともと中国については、独裁的でなんとなくヤバそうな国なんだろうなという印象をもっていたものの、具体的にどうヤバいのかについてはわかっていなかった。 

 

本書で明らかになるのは

  • 少しでも油断をすると寝首をかかれる熾烈な権力闘争
  • 想像をはるかに超える共産党支配の徹底ぶり
  • 現制度における差別や格差の苛烈さ

これらに共通するのは、極端さである。

「まあ、このくらいにしとくか」という歯止めが利かないところが中国の異様さである。

 

中国共産党

中国憲法では「国家は中国共産党の指導を仰ぐ」とされており、実質的に共産党の独裁体制となっている。

ただし形式上、共産党の組織と国家の組織とは別になっているため、各組織の関係性を理解するのがややこしい。

現在の中国のトップである習近平(しゅうきんぺい、シー・ジンピン)の肩書は、

  1. 共産党中央委員会総書記(共産党のトップ)
  2. 共産党中央軍事委員会主席(共産党の軍事組織のトップ)
  3. 国家軍事委員会主席(国家の軍事組織のトップ)
  4. 国家主席国家元首

というように複数の肩書をもっている。

ややこしいのは、過去には軍のトップ(上記2,3)、共産党のトップ(上記1)、国家主席(上記4)がそれぞれ別の人物である時代があった。

その時国家の実権(最高指導者)は軍のトップの人物が握っていた。

このように、中国指導者にとって、軍を握ることが非常に重要である。

独裁の中国現代史 共産党の組織 国家の組織

共産党と国家の組織

中国では、共産党員が多くの特権をもっている。

共産党員であるかどうかが就職や、就職後の出世に大きく影響し、公務員には共産党員しかなれない。

共産党員になるためには、まず申請書を提出したのち様々な関門を突破する必要がある。意外にも党員資格の世襲はない。

戸籍による差別

中国では都市部と農村部で戸籍が別れており、激しい格差がある。

例えば、北京大学の試験では、都市戸籍をもつ人は低い点数でも合格できる。

また北京の戸籍が無ければ北京で就職することはできない。

さらに、医療費の負担額でも北京市民とそれ以外では大きな格差がある。

戸籍の変更は非常に困難で、人民解放軍での出世や博士号の取得などにより、共産党への貢献をして得点を貯める必要がある。

このような都市と農村の格差は中国では歴史的に繰り返されてきたことであるという。中国史における王朝交代はしばしば、農民反乱を契機として起こり、王朝が交代するときに、新しい皇帝グループとともに都市に入ってきた農民たちが、あらたな都市民となってきた。

個人の情報管理制度(档案)

都市部の人たちも、農村に比べて優遇はされているものの、自由で開放的な生活を謳歌しているかというとそうではない。

档案(とうあん)という政治的な内申書によりガッチガチに管理されている。

档案には出身地や本籍地、党員か否か、離婚歴の有無、人間関係、政治思想・信条が記されていて、各自が所属している組織によって管理されている。

本人が内容を見ることはできない。

档案の作成と内容の更新は、党書記と本人の面接を基に行い、周囲からの評判も書き加えられる。

所属組織を移っても、档案は新しい組織に引き継がれていくため、一度発行された档案は一生ついて回る。

 

粛清が共産党の統治ツール

著者の楊海英氏は「粛清」が中国共産党の最大の統治ツールであると断じている。

中国の歴代の権力者たちは政策に行き詰ると、恣意的に内部に新たな敵を設定し、その敵を人々に暴力的に弾圧させることで、弾圧した側への支配も強めてきた。

これが中国現代史の典型的なパターンであり、習近平体制でも変わりがないと指摘している。

1966年~76年まで続いた文化大革命という政治闘争では、政策の失敗の責任を取り国家主席の引退した毛沢東復権を狙って引き起こした。

毛沢東中央政府が資本主義に歩み寄ろうとしていると批判を行った。

そして大衆、特に学生を扇動して紅衛兵という学生組織が結成され、紅衛兵により中央政府の多くの幹部たちが暴行や強制労働などの迫害を受け、死亡している。

紅衛兵による暴走がエスカレートし統制が利かなくなると、毛沢東は今度は軍隊を使って紅衛兵を鎮圧する。

この時の軍隊のトップが林彪(リンピョウ)であるが、のちに毛沢東に野心を疑われ失脚する。

このように、”昨日の友は、今日の敵”という形で足の引っ張り合いが繰り返される。

恣意的なレッテル貼りで敵を作って弾圧するという構図が、のちの天安門事件や、現在の習近平による反腐敗闘争(公務員の腐敗撲滅キャンペーン)でも繰り返されている。

 

おわりに

この記事では、共産党の支配体制について書いたが、本書では支配体制が形成される歴史的過程が詳細に描かれている。

辛亥革命で清が倒れたころ(1911年)から始まり、現在の習近平体制ができるまで過程だ。

そこでは、当初共産党内で地味な存在であった毛沢東がいかにして権力を掴んだのか?日中戦争までは国民党が絶大な力をもっていたにもかかわらず、どうして共産党がとって代わることが出来たのか?などが描かれている。