天竺めざして、引きこもる。

いまより知的で気楽に生きるために役立つ本を紹介します。

リアルに興味がもてない。ならば気軽に付き合えばよい。 -弱いつながり 検索ワードを探す旅(東浩紀)-

本書はネットを有効に活用するための、リアルと関わる方法を提案する。

ネットの批判や、リアル回帰への言説はよく見られるが、

ネットにコアにかかわっている人間ほどリアルとの距離が遠くなりがちで、リアルとの関わりを提示されると心理的に圧迫感を感じるのではないか。

そのような指摘に本書は、実践可能なアンサーを提示していると思う。

 

 

 


著者の東浩紀氏は、
「ネットは世代、会社、趣味、など、自分と関係するあらゆるコミュニティの人間関係をより深め、固定し、そこから逃げ出せなくするメディアである」とし、

この問題へ対処するために、旅にでることを提案している。

 

Google検索で情報にたどり着くためには検索キーワードを入力しなくてはいけない。
その検索キーワードは自分の興味の中からしか出てこないため、必然的にアクセスする情報の範囲は限定される。
頑張って新しいワードを考えようと頭をひねってもあまり有効ではない。自分がアウトプットできる発想は自分の経験や環境に大きな部分依存しているからだ。
よって状況を打破するためには、自分のおかれている環境を変えるしかない。
自分が触れるものを変えることで自分の中から出てくるものが変わる。
その方法として提案しているのが旅なのだ。

 

しかしこれらの主張にはあまり新しさは感じられない。
ネットへの批判として、
「ネットを使うとき人は自分の見たい情報だけにアクセスし、それ以外の情報に触れる機会が生まれない。そのため偏った情報ばかりを受け取るようになる。」、という言説はよく見られる。
「旅に出る」にしたって、
寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」という洗練されてかっちょいい言葉がすでにある。
「なーんだ、『ネットばっかやっていないで、外に出てもっとリアルに触れろよ。』という説教か。」、と感じるかもしれない。
実際、私はそういう本だと思い最初は読むのをためらっていた。わかっているけど出来ていないことを指摘されることほど不愉快なことはない。

 

本書がすごいところは、
旅に対する心理的ハードルをぐっと下げている部分だ。

観光なんて、ものごとの表層を撫でるだけだから、観光で行くぐらいならむしろいかないほうがましだというひともいます。しかしそれは違うと思います。表層を撫でるだけだろうとなんだろうと、どこかに「行く」というのは、それだけで決定的な経験を与えてくれることがある。
東浩紀. 弱いつながり 検索ワードを探す旅(Kindleの位置No.395). 株式会社幻冬舎. Kindle版.

「旅」といっても、観光客気分で十分だと明言している。
これは、出かけることに限らず”いつもの自分ならやらないことを気軽な気持ちで少しやってみる”、ということだと私は解釈している。

 

ここからは、蛇足になるが東浩紀氏に興味を持ったきっかけについて記す。
先日、ニコニコ動画で「ニコ論壇時評2012「現代日本の思想~民主主義からネットまで~」という動画を見た。
そこで、抽象的で実現性のある具体策が見えずらい意見が飛び交う中、具体的かつ実践可能な方法論を紡ぎだそうとする姿勢に共鳴した。
私個人の思考の悪癖として、抽象的な議論に満足してしまい、具体的な問題に対処するための検討までいききれないことが多い。
一方で、根本的な議論をおざなりにして単に直面する問題に対処していく姿勢にも行き詰まりがあるように感じていた。
そこで、東氏のように抽象論を実践論まで落とし込む営みを重視する考え方に刺激を受けた。
本書も、東氏のそのような実践可能な方法を提示しよう姿勢が表現されたものだと思う。

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