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【書評・要約】サピエンス全史がガチでおもしろい(下)ー現代的な価値観の形成編ー

 

 サピエンス全史|面白い|解説|要約|イラスト|わかりやすい

サピエンス全史について興味があるけど読むのに躊躇している方向けに、私が本書を読んで、と好奇心をくすぐられた部分を紹介する。

驚くべきことに、人類の行く末を大きく変えるような革命的な出来事の中で、人々が意図して引き起こしたものは一つとしてない、ことが明らかにされる。また、現在当たり前だと感じている文化や価値観が非常に長い間の思想の積み重ねと、それが生活様式の中に組み込まれることで成立していることだ。

 

前回に続いて、今回は下巻の内容についてまとめていく。

▼上巻のまとめ記事▼

sunuse.hatenablog.jp 

拡大する社会と統一に向かう世界(のつづき)

農業革命以降、世界は拡大を続ける。その中で、人類全体に共通して通用する普遍的な秩序が誕生する。紀元前1000年紀に最初の普遍的秩序となる可能性を持ったものが3つ登場した。それが貨幣・帝国・宗教だ。

前回記事では、貨幣、帝国までを紹介し、今回は3つ目の宗教について説明する。

いまも社会の秩序の裏には宗教がある

宗教が歴史的に社会・政治と強く結びついていて、為政者の権威付けや、人々の道徳的規範としての役割をはたしていることは理解していた。ただ、何をもって宗教とするのかの線引きが難しい。キリスト教イスラム教のように、唯一絶対の神を信じるものもあれば、仏教のように神を持たないものもある。何かを信じるということは、すべて宗教なのか。日常でも別段客観的な検証をしらずに、漠然と多くのことをに信じているが、これらもすべて宗教なのか。

本書で提示された宗教の定義は非常に私をすっきりとさせてくれた。

したがって宗教は超人間的な秩序の信奉に基づく人間の規範や価値観の制度と定義できる。

ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (Kindle の位置No.68). 河出書房新社Kindle 版.

宗教の定義ついては議論が分かれる*1ので注意が必要だが、単に何かを信じているだけではなく、規範や価値観を形成するに至って初めて宗教といえる、というのが重要なポイントであると思う。例えば幽霊の存在を信じていたり、インフルエンサーの発言を鵜呑みにするだけでは宗教とは言えない。

この定義に即して伝統的な宗教を眺めると、キリスト教イスラム教は神、仏教は自然の法則、をそれぞれ超人間的な秩序として信じている。また、戒律という形で人間の規範や価値観を規定している。

逆に、一般的に宗教とは呼ばれないものの中にも、宗教性を持つものがあることが浮き彫りにされる。

近代には、自由主義共産主義、資本主義、国民主義、ナチズムといった、自然法則の新宗教が多数台頭してきた。これらの主義は宗教と呼ばれることを好まず、自らをイデオロギーと称する。だが、これはただの言葉の綾にすぎない。もし宗教が、超人間的な秩序の信奉に基づく人間の規範や価値観の体系であるとすれば、ソヴィエト連邦共産主義は、イスラム教と比べて何ら遜色のない宗教だった。

ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (Kindle の位置No.418). 河出書房新社Kindle 版.

このように、過去から現代にいたるまで大規模な社会の価値観や秩序の裏には宗教的な思想がある。後述するが自由主義や資本主義の思想は、さまざまな生活様式の中に埋め込まれているため、自分がそれらを信奉していることを自覚しずらい。

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誰かが客観的な証拠がないものについて妄信する様を見ると、異様な気持ちの悪さを感じる。いままで、それは疑いなく妄信する態度が気持ち悪いのだと思っていたが、単に常識的な行動とのズレに違和感を覚えているだけなのかもしれない。自分自身も多くのものを自覚無しに妄信し、それに依存して生活しているのだから。

科学革命

何が革命なのか?

科学やテクノロジーの発展が今の文明を支えていることは理解できる。本書はさらに、科学革命が単なる技術の爆発的発展にとどまらず、それ以前とそれ以降とを決定的に分かつものであった、と主張する。

科学革命はこれまで、知識の革命ではなかった。何よりも、無知の革命だった。科学革命の発端は、人類は自らにとって最も重要な疑問の数々の答えを知らないという、重大な発見だった。 イスラム教やキリスト教、仏教、儒教といった近代以前の知識の伝統は、この世界について知るのが重要である事柄はすでに全部知られていると主張した。

ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (Kindle の位置No.794). 河出書房新社Kindle 版.

人間は「自分たちが知らない」ということを自覚するのが難しいということを痛感する。2000年以上前にソクラテスが「無知の知」という言葉を残しているのに、つい500年まえまで浸透していなかったのだ。

このような科学革命がおこる転機となった出来事として本書は、アメリカ大陸の発見を挙げている。

結局、強烈な体験や事実がないと人の考え方は変えることは難しいということだ。上司の頭が固くて悩んでいる人は、会議室での説得にやっきになるよりも、なにか具体的な成果を見せたり、上司に実際に体験してもらう方が効果的かもしれない。

 

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膨張する市場と現代的な価値観の形成

科学革命がもたらした、「未来が今より良くなる」という思想が人類に定着したことで資本主義が生まれた。

科学革命が起こり、進歩という考え方が登場した。進歩という考え方は、もし私たちが己の無知を認めて研究に投資すれば、物事が改善しうるという見解の上に成り立っている。この考え方は、まもなく経済にも取り入れられた。進歩を信じる人々は誰もが、地理上の発見やテクノロジー上の発明、組織面での発展によって人類の生産や交易、富の総量を増やすことができると確信している。

ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (Kindle の位置No.1940). 河出書房新社Kindle 版.

さらに、産業革命による生産性の向上と交通・通信技術の発達により国家と市場は、仕事、教育、医療・福祉、警察など、それまでは家族やコミュニティが担ってきたサービスを賄えるようになった。人々はそれらのサービスを享受し、個人として独立を果たした。それまでは、家族やコミュニティの意向に左右され自由な選択が制限されていた。

 

個人として扱われることが当たり前過ぎて、そうではなかった時代の感覚をリアルにイメージすることは難しい。江戸時代の連座(罪を犯した際にその家族にも刑罰が行われること)の話を聞くと、昔の人はなんて理不尽なんだという感覚を抱くし、同時に"現代では家族やコミュニティの絆が薄らいでいる"、といった風潮もあまりピンとはこない。たが、歴史の推移を追っていくと、今の状態が必然的なものでないことを認識することはできる。

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最後に

人類は常にその時その時の状況に応じた課題を解決しようと活動してきたが、サピエンス全史に出てきた、人類の行く末を大きく変えるような革命的な出来事の中で、意図して引き起こされたものは、一つとしてない。全く別の意図で進めた活動がたまたま、その時代の別の出来事との運命的な出会いを経て、時代に大きなうねりを生んだ。

未来についても同様なのだろう。今とは違う文化や価値観も意図しない活動から生み出され、自覚しないうちに人々の中に埋め込まれていくのだろう。

過去の賢人たちが無理だったように、当然私が未来を予測することは出来っこないが、現在の出来事について、それがいまの自分の価値観に沿ったものであれ、沿わないものであれ少し違った角度で眺めてみることくらいはしてみようと思った。

 

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*1:宗教 - Wikipedia 2021年4月11日 (日) 07:18時点における版