小麦の野郎に諮られたっ!-サピエンス全史(上) (ユヴァル・ノア・ハラリ)-
サピエンス全史は私たちが日頃流してしまっている、素朴で根本的な問題に取り組んだメッチャメチャ面白い本。
★サピエンス全史が扱う刺激的なテーマの例★
- 「なぜ人類は繁栄したの?」
- 「文明ってどうやって発展したの?」
- 「そもそも繁栄は、幸福なの?不幸なの?」
しかも専門用語が余り使われていないため、事前の歴史の知識はほぼ不要。
どうも難しそうというイメージを持たれているが、実際私は理系なので高校時代は世界史の授業は殆ど受けていないが、問題なくついていくことができた。
問題は上下巻に別れるほどに長いことだ。忙しい方々には、ちょっとしんどいかもしれない。そんな人はこの記事の要約を読んでサクッとエッセンスをつかんで貰えると嬉しい。
私自身は、こんなに面白い本を読んだので誰かに話したくてたまらない。だが残念ながら、こんな話題を職場や飲み会でどや顔で話したら、間違いなくウザがられる。
というわけでこの場を借りて、私がサピエンス全史を読んで好奇心をくすぐられた部分をイラストを交えて要約・解説する。
本の体裁に合わせて。記事も上・下に分けて投稿する。
▼下巻の記事はこちら▼
概要:上下巻のダイジェスト
唯一生き残った人類「ホモ・サピエンス」
本書において"人類"とは生物学の分類階級における、ホモ(ヒト)属をさしている。
過去にはさまざまな種類の人類が存在したが、現在生き残っているのは「ホモ・サピエンス」のみである。
では、なぜサピエンスが唯一の生き残りになったのか?
3つの革命が歴史の道筋を決めた
認知革命、農業革命、科学革命の三つが歴史の道筋を決めたとされている。
認知革命は、7万~3万年前に見られた思考と意思疎通が飛躍的な発達である。
認知革命によりサピエンスは柔軟な言語能力を獲得した。他者との複雑なコミュニケーションが他の生物や他の人類種に類を見ない大規模な協力関係を可能とし、勢力を拡大した。
実は、サピエンスの特異性は複雑なコミュニケーションが本質ではない。もっと重要なのは、"神話・虚構"を創り出す能力である。
農業革命以前、サピエンスは狩猟採集の暮らしをしており、定住せず放浪の生活をしていた。
最後の氷河期が終わり、小麦その他の穀類が増加すると、サピエンスは小麦が繁茂する土地に定住し、栽培(農耕)に専念するようになった。
農耕は食糧供給量の増加をもたらし人口が増大した。
農耕はまた、大規模な政治体制や社会体制、支配者層・エリート層の台頭、さらには芸術、哲学の原動力になり、現代社会につながる影響をもたらした。
これらは一見、生活を向上させたように見えるが、実は以前より悪化した。
筆者は農業革命を、史上最大の詐欺とまで言っている。
科学革命は、未来への展望を与えるものだった。それまでサピエンスは、重要な知識はすべて、神や過去の賢人から与えられており、新たな知識や知恵がもたらされることは無いと考えていた。
あるきっかけから、知識を広げることで新しい力が獲得できるという思想が生まれた。
科学は、単独で発展したわけではなかった。植民地を求める帝国主義や台頭した資本主義との結びつきが科学の発展を支えた。
以降、各革命について解説していく。
認知革命の解説
"虚構"の力
親密なコミュニケーションにより維持できる組織の規模の上限は、150人といわれている。この上限を超えた組織をサピエンスは当然のように維持しているが、ほかの動物には実はできない。
そこで"虚構"が登場する。虚構は見ず知らずの人同士を結び付ける力である。
虚構を集団で信じる能力のおかげで、複雑な社会が維持できている。改めて考えると身の回りの物事すべてが虚構であることに気づかされるし、冷静に考えるとよくこんな仕組みが成り立っているなと、不思議に感じるものもある。
このように一旦虚構が成立すると空気のごとき存在になってしまうため、自分が虚構を信じているという自覚さえ普段はもっていない。
一方、新たに効力を持つような虚構を信じさせることは非常に難しい。過去の偉人たちが世に出た当初は非難された逸話も、枚挙にいとまがない。人間がいかに惰性的存在であるかを改めて思い知らされる。
虚構は遺伝子の進化を迂回する
遺伝上の進化を迂回する能力により、サピエンスは生物の一つの壁をぶち破り、ほかのあらゆる人類種や動物種を大きく引き離していった。
農業革命の解説
農業革命がもたらしたもの
農業革命は、得られる食糧を増やし人口の増大を招いたが、生活の質の面で見ると害悪のほうが大きかった。
現在の私たちからすると、農業革命が文明が発展の契機となった、と評することが出来るが、当時の人たちからすると、「やっちまったな・・・」という感覚ではないだろうか。
いや、たぶんそのような自覚も持てなかっただろう。農業革命は、何世代にもわたって徐々に定着していったものであるので、各世代は前の時代の生活を知らない。
そして、一度初めてしまうと、もたらされた結果(増えた人口を支える、築かれた社会制度の維持、etc.)に縛られ後戻りはできなかった。
さらに、作者の言葉が胸にずしんと響いた。
人々はなぜ、このような致命的な計算違いをしてしまったのか? それは、人々が歴史を通じて計算違いをしてきたのと同じ理由からだ。人々は、自らの決定がもたらす結果の全貌を捉え切れないのだ。
(中略)
前より一生懸命働けば、前より良い暮らしができる。それが彼らの胸算用だった。
ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (Kindle の位置No.1656-1662). 河出書房新社. Kindle 版.
コロナでGWの時間を持て余しているので、ついついエモいことを考えてしまう。
今の社会や自身の仕事を省みると、仕事のために仕事をしている感がぬぐえない。自身の仕事が、本質的に社会や人類に役立っているのだろうか。”会社の利益のため”の先の意義がまだ見いだせない。
さて、結果は芳しくない農業革命であるが、どのような経緯で農耕が始まり、定着していったのだろうか?
農耕が定着したのは小麦の生存戦略にはめられた結果?
サピエンスが農耕に専従する過程は、小麦の生存戦略にまんまと騙された結果であるとする解釈がある。下図のような過程だ。
そして、小麦の繁殖ともに一時的な野営地での滞在期間が延びていった。
模式図化すると、上記のようなプロセスでサピエンスは徐々に狩猟採集の放浪生活を離れ、農耕への専従と定住が定着していく。
農業革命以降、世界は拡大と統一に向かう
普遍的秩序としての貨幣・帝国・宗教
農耕によりもたらされた、余剰食糧は農耕者の手元には残らず、社会の拡大の原動力となった。この過程で、異なる文化同士がまとまり、世界は統一の方向に向かう。
現在、人類のほぼ全員が同一の地政学的制度(国際的に承認された国家で分割されている)、同一の経済制度(資本主義)、科学制度、etc.を持っているが、過去の人類は、本当にバラバラであった。
これらのように、世界全体で普遍的秩序となり得る3つのものが、紀元前1000年紀に登場した。それが、貨幣・帝国・宗教である。※宗教は次回記事で記述予定。
貨幣は相互信頼の制度
貨幣はそれ自体に価値がなく、貨幣によってほかの価値に変換可能であることをすべての人が信頼した状態にならないと利用できない。
最初はそのような信頼は無いので、貨幣の最初期は本質的に価値があるものが利用され、徐々に現在の形態になった。
貨幣が社会の統一にもたらす効果は、以下がある。
- 宗教、性別、人種、年齢、性的指向に基づいて差別することがない唯一のもの。
- 見ず知らずで信頼関係のない人同士でも効果的に協力が可能とする。
異なる文化を支配する帝国
そもそも帝国とは何だろうか? 帝国と呼ばれるための資格をまとめた。
帝国は無尽の欲を持ち、それを原動力に様々な民族を支配下にしていくことで、世界の文化の統一をもたらした。
帝国に、初めて統一の視点をもたらしたのはペルシアのキュロス大王であった。新バビロニアを倒したキュロス大王は、バビロニアで捕囚となっていたユダヤ人が故国に戻り、神殿を再建することを許すよう命じた。
優しい王様だなということではなく、この時のキュロスの思想が斬新だったのだ。
これまでの考え方では、支配した民族の福祉について興味は持たない。なぜなら、あくまでペルシアの王だからである。ユダヤ人は別の民族であり、ペルシア人と同じ権利を与えるという発想を持たない。
だが、キュロスはペルシアの王であるとともに、ユダヤ人の王でもあることを自認していた。
キュロス以降の帝国は、支配民と被支配民とが共通の原理で結ばれていることを認めるようになった。そして時間ともに両者の文化は同化していった。その過程で支配民と被支配民が対等になることもあった。
こうして帝国はその影響を拡大する過程で多数の文化を少数の文化に統合していった。
筆者は将来の帝国は真にグローバルになると言っている。すなわち、国家という垣根が瓦解されていくということだ。
その根拠として、以下のような世界の潮流を挙げている。
- 次第に多くの人が、民族や国籍にかかわりなく全人類が政治的権力の正当な源泉であり、人権を擁護して全人類の利益を守ることが、政治の指針であるべきだと考えるようになってきている。
- 単独の国家で解決不能な本質的にグローバルな問題が出現している。地球温暖化に代表される環境問題など。それにより、国家の正当性が失われつつある。
- 国家は、グローバル市場の思惑や、グローバルな企業、NGOからの干渉、グローバルな世論や国際司法制度の影響をますます受けやすくなっている。
私自身も、いずれ国家という枠組みがいずれなくなると思っているが、国家にとって代わる主体はどんな組織になるのであろうか?
まとめと予告
今回は、サピエンス全史の上巻の内容をまとめた。次回の記事で下巻の内容をまとめる。下巻の内容は、より現代社会に直接つながる部分が多く、
「それは、そういうからくりだったのか!」という知的好奇心をくすぐる話題が目白押しである。
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