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なぜ「空気」を読むのか(2)-「空気」の研究(山本七平)-

前回は、本書第1章の『「空気」の研究』の内容に沿って、人々を拘束する「空気」が生成される原理を紹介した。

 

そして、空気の支配を打破するために、かつては「水を差す」という方法がとられて来たが、現代社会ではそのままでは通用しないということを述べた。

 

今回は、この「水」というモノは一体なんであるか?

そして、現代社会で空気の支配を打破するにはどうすれば良いかについて、本書第2章『「水=通常性」の研究』で語られている内容をまとめる。

 

2章の内容は非常に抽象的で、理解にかなり苦慮した。そのため、今回の記事は私自身の理解のため主観的な解釈が強くはいってしまっていることを注意してほしい。

 

 

「水」とは何か

何か盛り上がっているときに、しらけさせる発言をすることを、「水を差す」という。

 

かつて、モー娘。石川梨華に恋焦がれ、来る日に備え、考え抜いたデートプランを熱くプレゼンした中学生時代の私に、「そもそも接点がないよ。」と指摘してくれた友人の発言がそれである。


水を差すとは、事実や現実を告げ日常に引き戻すこと。すなわち、水とは「通常性」である。

ただし、「通常性」といっても、これは真の現実ではなく、日本人の通常性はその文化や歴史的背景による、バイアスがかかったものとなる。これを筆者は「日本的通常性」と呼んでいる。


そして「日本的通常性」は、それ自体が「空気」を生成する機能を備えているため、たとえ、水を差すことで空気を破壊しても、また別の空気を生成してしまうのである。

日本的通常性とは -「情況倫理」と「父と子の隠し合い関係」-

日本の倫理観と西欧の倫理観は異なる。例えば「窃盗」について、「盗みという行為はいついかなる場合も悪だ」、とするのが西欧的な倫理観。

 

対して、「なぜ盗んだか?どんな背景があったんか?」を問うのが、日本的な倫理観であり、これを「情況倫理」という。

 

仮に、窃盗犯が三日三晩飲まず食わずの状況でどうしてもやむを得ず、コンビニで蟹パンを盗んだとして、「盗まざるを得ない状況を生み出した社会が悪い」といった、発想がありうるのが日本なのである。

 

こうすると、常に善悪の判断はケースバイケースで、しかも情況を恣意的に解釈すれば、いくらでも基準は揺らぐ。それではあまりに無秩序で社会が立ちいかない。けれども、西欧のような情況を考慮しない杓子定規な倫理基準も嫌だ。

 

そこで、情況を作り出す絶対的存在を求めるようになる。

 

会社という存在が卑近な例であろうか。平時には、コンプライアンス意識があっても、経営が悪くなると、「会社のためには多少の不正は見過ごしてもよい。会社がつぶれてしまえば社員全員が路頭に迷うのだから」という情況が生まれる。倫理の基準自体は一貫性がないが、「会社のために」という部分について共感を得られれば、集団としての秩序が維持できる。


さらに、これを補強する思想に、孔子の「父は子の為に隠し、子は父の為に隠す」という教えがある。上司が不正を犯しているのを知りつつそれを報告しない。それこそが、善であり、告発するような奴はわかっていない奴だといった発想である(孔子はあくまで、親子関係にのみ適用するべき情として考えていたようだが)。

 

上記が、日本的通常性である。

つまり、ある種の「空気(=情況)」に「水(=日本的通常性)を差し」ても、通常性自体に「空気」を生成する機能が備わっているために、また新たな別の「空気」が作られ、根本的な解決にはならない。

さらに、日本的通常性は「父と子の隠し合い関係」を思想に持つために、水を差すことを排除するという、自己矛盾もはらんでいる。

どうすればよいか -探究と自由-

筆者の言葉をそのまま引用する。

そしてその時にそれから脱却しうる唯一の道は、前述のあらゆる拘束を自らの意志で断ち切った「思考の自由」と、それに基づく模索だけである。──まず〝空気"から脱却し、通常性的規範から脱し、「自由」になること。<中略> そしてそれを行ないうる前提は、一体全体、自分の精神を拘束しているものが何なのか、それを徹底的に探究することであり、すべてはここに始まる。

山本 七平. 「空気」の研究 (文春文庫) (Kindle の位置No.2147-2151). 文藝春秋. Kindle 版.

最後に

『「空気」の研究』について2回にわたって整理した。論理として少し強引な部分もあるように感じもするが、私がここ数年もやもやと感じていた疑問、「一人一人は普通なのに、なぜ組織になるとズレた発想が生まれるのか?」について、かなり納得感のある説明を見ることが出来てすっきりした。

 

【前回記事】

sunuse.hatenablog.jp