天竺めざして、引きこもる。

いまより知的で気楽に生きるために役立つ本を紹介します。

幸せになるための対人関係の築き方 - 嫌われる勇気(岸見一郎、古賀史健)-

「嫌われる勇気」は幸せになる方法の解説書

本書の非常にキャッチーなタイトルからは、「他者の批判を恐れず、自己主張をするにはどうすればよいか」という、いわゆる鈍感力について語られた本を想像する。

ところが、本書はそのような"攻撃的"な内容ではなく、他者も自分もともに幸せになるためにはどうすればよいかについて解説している。

もっというと、幸せになるための理想的な対人関係の築き方について説明している本なのである。

では、なぜ「嫌われる勇気」というタイトルなのか?

それは、他者と理想的な関係を築く過程で、他者に嫌われることを恐れない姿勢が必要になるからである。

なので、本書の目的は嫌われる勇気の獲得ではなく、その先にある幸せを獲得することなのである。

ただ本書の形式が対話形式であるためか、一読しただけだと幸せに至るまでのプロセスが把握しづらいと感じた。

そこで本記事では、本書を読む際の補助線となるべく、本書の内容について私個人の解釈をまとめてみる。

幸せとは、貢献感である

本書では幸せとは「貢献感」であるとされている。

哲人  もうあなたもお気づきですよね?すなわち「幸福とは、貢献感である」。それが幸福の定義です。

岸見 一郎; 古賀 史健. 嫌われる勇気 (Kindle の位置No.3227-3228). . Kindle 版.

哲人 人間にとって最大の不幸は、自分を好きになれないことです。この現実に対して、アドラーはきわめてシンプルな回答を用意しました。すなわち、「わたしは共同体にとって有益である」「わたしは誰かの役に立っている」という思いだけが、自らに価値があることを実感させてくれるのだと。

岸見 一郎; 古賀 史健. 嫌われる勇気 (Kindle の位置No.3214-3217). . Kindle 版.

つまり幸せとは、自分に価値があるという実感がもてることであり、自分の価値を実感するには、自分が他者へ貢献できていると感じる必要がある、ということなのだ。

 

ん~、あまりに道徳っぽすぎて、違和感を覚えるだろうか。

確かに、他者に貢献できることに無上の喜びを感じる人もいるだろうが、そんな人は一部ではないか。

 

例えば、自身の人間関係の中で、”相手が喜ぶとなんとなく嬉しい”と自然に感じられる相手はいないだろうか。家族、恋人、友人、etc.どんな間柄でもよい。

もし誰か一人でも損得を抜きにして、”相手が喜ぶと自分もなんか幸せ”と感じられるような関係が想像できたなら、それをより広い関係へ、親しい間柄だけでなく、見知らぬ他人に対しても思えるようになることが、幸せな状態だと本書は語っている。

 

あらゆる他者に対して、相手の喜びを自分の喜びとして感じられるようになると、もはや生きているだけで自分の価値を実感できることになる。

 

なんとなく、得心できただろうか?少々スピリチュアルな感じがするだろうか?

問題は、どうやったら見知らぬ他人の喜びを、幸せだと思えるようになるかなのである。聖人君子でもあるまいし、他者の喜びを願おうと念じたところでそんなことはできない。ではどうすればよいのか?

まずは、心から貢献したいと思える相手を一人つくる

いきなり見知らぬ他人に対して貢献したいと思えるようになることはできない。

まずは、たった一人、心から貢献したいと思える相手をなんとかしてつくることだ。

そのような他者との関係を本書では、「横の関係」と称している。

横の関係とは、相手と自分との間で上下の評価や、相手への操作を目的としない関係のことをさしている。

いまいちイメージが湧かないかもしれない。これは「横の関係になっていない」関係について、想像するとイメージの助けになる。

例えば、相手を叱ったり、見下したりすることはもちろん横の関係ではないが、相手をほめる行為も横の関係とは言えない

なぜならば、ほめるという行為は、「能力のある人が能力のない人に下す評価」という側面が含まれるからだ。

そして、ほめるという行為の背後にある目的は「相手を操作すること」だと本書は断じている。

 

では、どのような関係が横の関係であるのか。

それは感謝である。相手を良いとか悪いとかで評価せず、感謝の気持ちを抱くことが横の関係である。それも相手が何かしてくれたから感謝するのではなく、究極は相手が存在してくれることそのものを感謝するのである。

そんなことは当然見知らぬ他人に対しては思えない。だが、かわいい恋人やかわいい子供だったら、そんな風に存在そのものを愛おしく思うことが、たまにはあるのではないか。その気持ちを感じた瞬間を強く意識していくことが重要なのではないか。

 

そして相手の存在に感謝できたら、つぎは相手を無条件に信頼することである。

無条件にというのは、相手から裏切られたり、好意を無下にされても気にせず、相手に対して、自分はどう貢献するか、だけを考えるということである。

 

なかなかにハードだが、たった一人でいいので、自分が無条件に貢献したいと思える関係性をつくるのが重要なのだ。

 

そして本書は、一つでも、横の関係を築くことができれば、あらゆる他者に対して横の関係を築くことができると述べている。

貢献感を得るための他者貢献。自己犠牲ではない。

横の関係を築くことができれば、心から貢献したいという気持ちを持てるようになる。だが、貢献が自己犠牲になってはいけないことに注意する必要がある。

自分自身も相手と同様に価値ある存在なのである。自己を犠牲にして相手に献身するのが良いわけではない。

また、他者からほめられたいという気持ちとも異なることに注意だ。

たとえ相手から感謝がなかったとしても、自分自身が自分を価値あるものであると実感することである。

最後に

この記事では、嫌われる勇気の中で最も重要だと思われる「幸せについての考え方」のエッセンスを抽出したつもりである。

本書では、青年と哲人の対話を通じて幸せとは何なんのかについて、もっとじっくり語られている。

この記事でどうも物足りない方は、是非本書を手に取ってみていただきたい。